『登場人物』
- 朝倉 悠(あさくら ゆう) 防災系ブログ「未来地図」を運営するライター。 災害史に詳しいが、富士山噴火は“遠い話”だと思っている。
- 白石 玲奈(しらいし れな) 東京都危機管理局の若手職員。 富士山噴火対策の担当だが、組織の鈍さに苛立ちを抱える。
- 三雲 剛(みくも つよし) 富士山火山観測センターの火山学者。 「300年の沈黙は異常だ」と警鐘を鳴らすが、世間からは“悲観論者”扱い。
- 榊原 慧(さかきばら けい) 大手通信会社のネットワークエンジニア。 富士山噴火時の通信障害を恐れているが、会社は「想定外」で片付ける。
第一話:静かすぎる山
1. 2026年6月、東京・新宿
夜の湿気がまとわりつく。 朝倉悠は、スマホに届いたニュース速報を見て足を止めた。
《富士山周辺で低周波地震が増加。気象庁「現時点で噴火の兆候はない」》
「またか……」
富士山の“前兆ニュース”は、もはや季節の風物詩。 だが、この夜はなぜか胸の奥にざらつくものが残った。
2. 富士山火山観測センター・三雲の焦り

山梨県。 三雲剛は、モニターに映る波形を見つめていた。
「……増えている。明らかに。」
低周波地震。 マグマが地下で動くときに発生する“火山の胎動”。
助手が声を震わせる。
「三雲先生、これは……?」
三雲は静かに答えた。
「富士山は平均30年に1度噴火してきた。それが300年以上も静かだ。 これは“異常な静けさ”なんだ。 次が来てもおかしくない。」
研究室の空気が一瞬で冷えた。
3. 東京都危機管理局・玲奈の苛立ち
都庁の会議室。 白石玲奈は、資料を叩きつけるように机に置いた。
「宝永噴火規模なら、東京23区で10センチの降灰です。物流は止まり、停電は3600万人規模。首都機能は麻痺します。避難計画の見直しが必要です!」
しかし上司は眉をひそめた。
「玲奈くん、そんな“最悪の想定”を出したらパニックになる。 まずは“現実的な範囲”で考えよう。」
玲奈は唇を噛んだ。
(現実的……? 富士山噴火は“国難級”だって国が言ってるのに……)
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4. 通信会社・榊原の不安
深夜のオフィス。 榊原慧は、富士山噴火時の通信シミュレーションを見ていた。
「降灰3センチで基地局の絶縁低下…… 10センチで大規模停波…… 30センチで復旧不能……」
上司は笑って言った。
「そんなの起きないよ。富士山なんて300年噴火してないんだ。」
榊原は呟いた。
「……だから怖いんですよ。」
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5. そして、静寂が破れる

翌朝。 朝倉悠のスマホが震えた。
《富士山・山頂直下で低周波地震が急増。専門家「数日以内に噴火の可能性も」》
画面には三雲剛の顔が映っていた。
「極端な話、明日噴火してもおかしくない。富士山は“若い火山”だ。活動は終わっていない。」
悠は息を呑んだ。
その瞬間、 東京の空に、かすかな灰色の霞が漂い始めていることに、 まだ誰も気づいていなかった。


