X-DAY 第6話

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LEVEL -3

東京湾

午後11時56分。

誰も、地下へ続く階段を見つめたまま動かなかった。

暗闇。

ライトの光は、十数段先で闇に飲み込まれる。

底が見えない。

静かだった。

静かすぎた。

地上では、波の音がかすかに聞こえる。

しかし、地下からは何一つ聞こえない。

風もない。

空気すら止まっているようだった。

地下に伸びる階段を下りる画像

「……行こう。」

最初に歩き出したのは美咲だった。

ヘルメットのライトが、階段を白く照らす。

一段。

また一段。

靴音だけが響く。

カン……

カン……

コンクリートの反響音ではない。

どこか柔らかい。

「音が違う。」

美咲が足を止める。

ライトを床へ向けた。

階段はコンクリートではなかった。

表面には、黒いゴム状の素材が敷かれている。

防振材。

大型施設でしか使われないものだった。

「倉庫の地下じゃない。」

直樹が低く呟く。

「こんな設備、見たことがない。」

壁へライトを向ける。

配管。

電源ケーブル。

さらに、太い光ファイバー。

何十本も束になって、地下へ伸びている。

「通信設備……?」

拓也が思わず声を漏らした。

さらに降りる。

二十段。

三十段。

四十段。

まだ終わらない。

「深すぎる。」

美咲が振り返る。

地上の光は、もう小さな点になっていた。

突然、

壁に白いプレートが現れる。

LEVEL -1

全員が立ち止まる。

「まだ一階……?」

さらに降りる。

空気が変わった。

ひんやりしている。

しかし、地下特有の湿気がない。

乾いている。

古いコンクリート。

金属。

機械油。

そして、雷雨の前に感じる、微かなオゾン臭。

「換気が動いてる。」

美咲が天井を照らす。

巨大なダクト。

内部から、ごく弱い風が流れていた。

「電気が生きてる。」

直樹の声が少し震えた。

「誰が管理してる。」

誰も答えられない。

その時だった。

拓也の胸ポケットが震えた。

プレミアムチャージWiFi。

通信ランプ。

一本。

二本。

三本。

四本。

最大。

「あり得ない。」

拓也は立ち止まる。

「地下へ降りるほど、通信が強くなる。」

「普通は圏外になる。」

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画面を見る。

表示されたネットワークは一つ。

UNKNOWN NODE

接続可能

「接続するな。」

直樹が即座に言った。

「何か分からない。」

「ウイルスかもしれない。」

美咲も頷く。

「未知の通信を受けるのは危険。」

少女だけが、階段のさらに下を見つめている。

「違う。」

静かな声だった。

「向こうが待ってる。」

「誰が。」

少女は答えない。

ただ、暗闇を見ていた。

再び歩き出す。

やがて、巨大な鋼鉄製の扉が現れた。

高さ三メートル。

分厚い防爆扉。

表面には傷一つない。

横には、電子認証パネル。

しかし、電源は落ちている。

その横に、もう一枚。

白いプレート。

LEVEL -3

「ここだ。」

美咲が息を呑む。


その瞬間。

扉の向こうから、低い音が響いた。

ゴン。

全員が固まる。

もう一度。

ゴン。

今度は少し近い。

何かが動いた。

巨大な。

重い。

金属の塊のような音だった。

拓也の端末が震える。

画面が切り替わる。

UNKNOWN NODE

通信要求

「来る。」

少女が呟く。

拓也は画面を見つめる。

数秒迷った。

そして、接続を押した。

通信中……

……

……

……

接続完了

画面は真っ黒だった。

数秒後。

白い文字だけが現れる。

WELCOME

全員が息を止める。

さらに、二行目。

WE HAVE BEEN WAITING.

(私たちは待っていた。)

突然、画面が乱れる。

ザーッ……

UNKNOWN NODE

AUTHORIZATION REQUIRED

その下には、

二つだけ。

YESかNOを選択させる画像

YES

NO

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地下の奥から、

再び振動が響く。

ゴン。

ゴン。

今度は、明らかに近い。

画面の右上に、数字が表示された。

59

58

57

……

「カウントダウン……。」

拓也が呟く。

美咲が首を振る。

「違う。」

「選択の制限時間。」

「YESを押したら。」

直樹が息を飲む。

「何が起きる。」

誰にも分からない。

「NOを押したら?」

沈黙。

それも分からない。

少女だけが、拓也を見つめる。

「選んで。」

その声は、お願いではなかった。

知っている者の声だった。

数字は止まらない。

10

9

8

……

地下の振動は、さらに近付く。

ゴン。

ゴン。

ゴン。

拓也の指が、ゆっくりと

YES

へ伸びる。

3

2

1

画面が白く発光した。

UNKNOWN NODE

AUTHORIZATION ACCEPTED

その瞬間。

重さ数十トンはある防爆扉が、ゆっくりと、音もなく開き始めた。

地上では決して聞こえなかったはずの機械音が、長い眠りから目覚めるように地下全体へ響き渡る。

誰も知らない。

この扉の向こうにあるものが、人類の未来を変える最初の一歩になることを。

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